友人の颯君からレンズを借りた
Nikon S用レンズで銘は
「NIKKOR-S 50mm F1.4 Millennium」
またの名を
「Summilux Killer」
スペック
焦点距離:50mm
視野角:46°
開放絞り値:f1.40
最大絞り値:f16
構成:5群7枚
絞り羽:9枚
最短撮影距離:90cm
コーティング:マルチコート
フィルター径:43mm(ピッチ0.75)
サイズ:直径51mm x 長さ49mm
フォーカス回転角:270°
重量:177g
最短撮影距離やフォーカス回転角はNikon S装着時の値
ややこしい話なのだが、
Nikon S3は、1958年にNikon S2の後継機として発売、約一万台製造された
このS3に付属レンズを便宜上、5cm f1.4と呼称する
そして1964年、オリンピックを記念しNikon S3の追加生産型が発売、限定個数は2000個
そこに付属することになったのがNikkor-S 50mm f/1.4
通称、オリンピックニッコール
焦点距離表示が5cmから50mmへと変更になり、構成もゾナー型からガウス型に
そして時が流れて2000年、Nikon S3は再度復活する事となる
Nikon S3 ミレニアム、こちらは8000個限定で発売された
レンズの硝材やコーティングなどは見直しされているが、基本設計は同じ
当然玉数も後に発表されるブラックエディションと合わせて10000個と希少なレンズで中古市場ではあまり見かけない
この記事でレビューするNikkor-S 50mm f/1.4はこの年のモデル
その後の2002年、
Nikon S3 Limited Edition BLACKが再び発売
され、同レンズとセットで2000個限定生産された
2002年といえば当然にデジタル一眼レフが登場している
NikonならD100の発売年
CanonならEOS 1DsやD60の発売年
RF用のMFレンズであるNikkor-S 50mm f/1.4は必然的に最後のS用レンズと言えるだろう
Nikkor-S 50mm f/1.4
この玉は2000年に復刻された時のレンズ
レンズタイプは典型的なガウス型で5群7枚
Nikon S型の標準レンズはゾナー型が主流だったが、大口径化に伴いレンズ形式変更となった
結果、本レンズはS型には珍しいガウス型で、同型のS用標準レンズは他に5cm f1.1しかない
どちらのレンズもS用にしては最も大きく、重い
さて、
Nikkor-S 50mm f/1.4
であるが、
Nikkor-「S」のSとはどんな意味だろうか
解説すると、Nikonではレンズ枚数に応じてNikkorの後に数字の意味を持つアルファベットを表記する
この場合の、「S」はラテン語のSeptから成っており、7を意味する単語である
ギリシャ語からルーツを取るパターンもあり対応表は下記の通り
T=3 Q=4 P=5 H=6 S=7 O=8 N=9
このS=7はレンズ枚数を表している
また他のブログではレンズ構成について4群7枚と記載があるがこれは誤りである
誤植の根源はおそらくこの本
当時のレンズ構成はメーカー発表のものでは無く、市販のレンズをX線写真撮影をし、その像を元に推測しているに過ぎない
恐らくは一番後ろのレンズを貼り合わせレンズと判断したのだろう
正しくは、5群7枚である
外観
ボディはブラックペイント
レンズフィルターは43mm
レンズピッチに注意してもらいたい、復刻前の50mm f1.4はピッチ0.5で本レンズはピッチ0.75なので、当時モノのフィルターを装着しようとすると壊れてしまう
レンズコーティングはマルチコート化されている
絞り羽は9枚
フォーカス回転角は270°とLeicaレンズより大きく、精密なフォーカシングが可能
重量は177gとS用レンズの中ではトップクラスに重い
Leica Mで使用するに当たってアダプタを用意した
Amedeo Adapter Nikon S 5cm - Leica M
ベネズエラのAmedeo Muscelli氏が、個人で作っているアダプターで精度の高さや独自のロック機構など高い評価を得ている
Nikon S用のロックを備える
フォーカスノブがついている
大きな回転角と相まって操作性は高い
そして精度は抜群
Leicaレンズと何の遜色なく使える
復刻版S3の同梱レンズである本50/1.4には43mmのクリップオンタイプフードが付属する
これは復刻前のオリジナルと同じ設計で、
Nikon S型で使用するとレンジファインダーの大部分がブラインドされてしまう
また、軽くぶつけると外れてしまうのでこのレンズの持ち主は気に入っていないそう
描写
まずはボケ味から
絞り開放の作例
カメラはNikon S2
背景はやや巻いているものの、非常に滑らかで時代を考えると相当優秀なレンズだった事が伺える
続いて無限遠スナップ
何気ない一枚だが中央付近の拡大画像を見て欲しい
開放では非常に線が細く、うっすらとベールに包まれた描写に
こちらはf1.4からf8までの描写変化
カメラはR6
中央付近のCB1000R
f1.4からf5.6まで
画面最右上
f1.4では周辺がかなり落ちる印象
周辺減光と球面収差
開放時の周辺部にややコマ収差が見受けられる
画質のピークはf5.6〜f8辺りか
湾曲収差は若干のマイナスな値を示しているが概ね平坦な描写
作例
作例は全て開放で撮っている
使用カメラはCanon EOS R6
SレンズとR6の見てくれは意外と悪くない
個人的にレンズレビューに置いて信用ならない単語がある
「立体感」である
なんとも文学的な表現であり、レンズレビューにおいてあまり参考にならない
がしかし
敢えて本記事では
「立体感のあるレンズ」
と評価しよう
滑らかなボケと2002年まで現役で生き残った由緒正しき収差たち
周辺でのフレア、光源は球面収差によって滲み、人間の目で見た時の印象に近い
本レンズ本来の最短撮影距離は90cmだが、
使用したマウントアダプターは焦点工房のSHOTEN LM-CR M (EX)
レンジ6mmのヘリコイドを搭載しており、被写体にかなり接近した撮影が可能
左がアダプターのヘリコイドを使用しない画角(被写体は最短撮影距離付近)
右がヘリコイドを約6mm繰り出した状態
RF機にあるまじき近距離撮影だ
至近距離ではピントはカミソリの様に浅い
ここからは少し弄った写真
カメラはLeica M10
まとめ
基本設計から約60年、
度重なる復刻を果たすのには理由がある
その描写とサイズ感、Nikonのガウス型50mmのスタンダードとして同じ発売時期で似たレンズ構成のLeica Summilux 50mm f1.4と死闘を繰り広げた本レンズは、当時のNikonの意地と設計技術の高さが伺える
現在の市場価格以上の歴史とロマンを秘めたレンズである事は間違いない
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